大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(う)108号 判決

集会結社の自由は憲法第二十一条の保障するところであり、従つて、集団示威、集団行進等団体行動の自由もまた、憲法保障の範囲内であることは所論の通りであるけれども、しかしながら、憲法第十二条、第十三条等に依つて明かな如く、国民の権利は「公共の福祉に反しない限り」最大の尊重を必要とすべく、「国民はこれを濫用してはならない」のであり国民は「常に公共の福祉のため、これを利用する責任を負う」旨規定されているところより観察すれば、憲法の保障する集会及び結社の自由は、決して無制限な自由(若しくは恣意)を意味するものではないことが明かであり、公共福祉のために必要且止むを得ない限度に於ては、もとより国政上これを制限することが許されると解さなければならぬ。昭和二十五年九月三十日福井県条例第六十八号第一条は、学生、生徒、其の他の遠足、修学旅行、及び体育競技、通常の冠婚葬祭等慣例による行事の場合を除き、道路其の他公共の場所で集会若しくは集団行進を行おうとするとき、または場所の如何を問わず集団示威運動を行おうとするときは、公安委員会の許可を受けなければならないと定め、第二条は、前条の規定による許可の申請は主催者である個人又は団体の代表者から、集会、集団行進または集団示威運動を行う日時の七十二時間前迄に(中略)許可申請書三通を開催地を管轄する警察署を経由して提出しなければならないとし、第三条第一項は、公安委員会は、前条の規定による申請があつたときは、集会、集団行進または集団示威運動の実施が公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明かに認められる場合のほかは、これを許可しなければならない。たゞし、次の各号に関し必要な条件をつけることが出来るとし、一、官公庁の事務の妨害防止に関する事項、二、じゆう器、きよう器其の他危険物携帯の制限等危険防止に関する事項、三、交通秩序維持等に関する事項、四、集会、集団行進、または集団示威運動の秩序保持に関する事項、五、夜間の静ひつ保持に関する事項、六、公共の秩序または公衆の衛生を保持するため、やむを得ない場合の進路、場所または日時の変更に関する事項を列挙し、同条第三項は、公安委員会は公共の安寧を保持するため緊急の必要があると明かに認められるに至つたときは、前二項の規定にかかわらず、其の許可を取消し、または条件を変更することが出来る旨定めているものであつて、斯る立法措置が憲法の規定と牴触するや否やを案ずるに、道路其の他公共の場所で行われる集会、集団行進は、公共の場所を相当長時間に亘り、多数人の集団によつて占拠壅塞するものであるため、或は公衆をして安全に交通させ、或は消防、衛生其の他公共機関の活動を妨げない様、公共福祉の要請より生ずるこれ等一定の制限を遵守せしめる必要があることは言う迄もなく、また、集団示威運動は、前記の集会又は行進に、さらに勢威の加わつたものであつて、勢の余るところ稍もすれば適正な限度を逸脱し、公共の秩序を紊す虞れなしとしないので、その行われる場所の如何を問わず、前記同様の制限を遵守せしめる必要がある訳であつて、斯の如き制限それ自体は、それが公共福祉の必要限度を逸脱するものではない限り、憲法と牴触するものではない。ところで、前記福井県条例第六十八号の内容を仔細に検討すれば、同条例の定めるところは、敍上の範囲を超えるものでなく、その解釈並に運用が適正である限り、これによつて毫も国民の基本的権利を侵害するものでないことを認め得る。蓋し、前記条例は集会、集団行進及び示威運動を行うについては、公安委員会の許可を受けなければならない旨定めているけれども、他面、同条例は同会に斯る集会等を許可すべき義務を課しているのであつて、公安委員会は同条例第三条(同条に定める不許可理由としての、「公安に対する直接の危険ありと明かに認められる場合」及びこれに対応する許可取消理由としての、「公安維持のため緊急の必要ありと明かに認められる場合」なる用語は、たとえば暴行、傷害、掠奪等公安に対して直接に危害が加えられるであろうことが具体的な証憑によつて明白に察知されるような場合を指称すると解釈すべきであり、濫りにこれを拡張して解釈すべきでないことは勿論である。)に定めるが如き公共福祉上必要且止むを得ないと明白に認め得る特殊の場合でなければ、不許可又は許可取消の処分をし、若しくは許可に条件を付し、又はこれを変更することが出来ないのであるから、公安委員会は、所論の如く自由裁量によつて許可不許可を決し得るものでないことは勿論、騒擾又は内乱等の目的を以てすることが明白に認められるような稀有の例外の場合を除き、正常なる集団行為に対し、第三条第一項各号の定める事務的制限を加え得る外、常に申請あらばこれを許可すべく義務付けられているものであると解すべく、かく解する限り同条例は憲法に違背するものでないからである。尤も、斯の如き集団行為について、一々届出の義務を課すことは、国民の臨機の行動を妨げ、権利の行使を事実上不可能ならしめるものであるとする意見があるけれども、集団示威及び公共の場所に於て行われる集会、集団行進については、主催者側に於て準備等のため、相当の日時を要するを例とし、その間、届出及び許可の手続を経由するは左程難事でもなく、却つて突如としてこれを行うに於ては、公安を紊り、公共福祉を害する可能性が多分に存することを認め得るから、この点についても右条例は憲法と牴触するものと言うを得ない。なお、本条例は、その第六条及び第七条に、此の条例の各規定は(前略)集会、政治運動を監督し、プラカード、出版物等を検閲する機限を公安委員会、警察職員、市町村吏員職員に与えるものと解釈してはならず、公務員の選挙に関する法律に矛盾し、または選挙運動中に於ける政治集会もしくは演説の事前届出を必要とするものと解釈してはならない旨定めているのであつて、これ等の点に関する憲法違反の疑いも、前記の規定によつて払拭されていることが明かである。最後に、本条例に基く福井県公安委員会訓令第七号第一条は、条例第三条に基く公安委員会の事務を警察隊長に委任し、たゞ、不許可の決定又は許可取消の処分をしようとするときに限り、警察隊長より公安委員会にその旨報告すべきものとする旨定めている点が、問題にされているけれども、警察隊長に対する公安委員会の事務委譲が、果して妥当な措置であるか否かはさておき、公安委員会自らが、自己の発意をもつて、一定事務を他の機関に委譲することそれ自体は、何等憲法と牴触するものでない。以上により明かな如く、本条例が憲法違反であるとする論旨は理由がない。次に、記録に基いて、原審証拠調の結果を検討するに、本件集会並に集団行進は、福井市左内公園又は同市内道路上等、公共の場所に於て、数百名の多衆によつて挙行されたものであつたこと、主催者等は、右集会及び集団行進を、所謂「万歳事件記念日」の行事として挙行すべく、相当日数以前より予定しながら、敍上福井県条例に定める届出の手続を執らず、従つて勿論許可を受けることもなくこれを挙行したものであつたこと、警察職員は同条例第四条に基く上司の命に従い、条例の定めるが如き警告を発し、且、集団行動を制止するため必要と認める措置をとつたものであつたことを各肯認するに足る。そうして見れば本件集会又は集団行進に対して、所論警察職員の採つた警告及び制止行為は、福井県条例第六十八号に基く適法な職務行為であつたことが明かであつて、この点に関する論旨もその理由がない。

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